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秋田地方裁判所 昭和60年(行ウ)4号 判決 1987年11月30日

原告 草光雄

被告 大曲労働基準監督署長

代理人 三輪佳久 太田正昭 田中一泰 斎藤孝志 志田幸禧 斎藤信一 ほか六名

主文

一  被告が原告に対し、昭和五五年七月一八日付をもつてなした労働者災害補償保険法による療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の存在

原告は、昭和四二年から同五三年四月まで伐採夫としてチエンソーを使用しての伐採作業に従事したため、業務上の事由により振動病にかかつたとして、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて、被告に対し、療養補償給付及び休業補償給付の請求をしたが、被告は、同五五年七月一八日、原告の疾病は業務上の事由によるものとは認められないとして、これを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をし、同年八月七日原告にその旨通知した。

原告は、右処分を不服として、秋田県労働者災害補償保険審査官に審査請求したが、右審査官は、昭和五七年九月二八日付でこれを棄却したので、原告は、更にこの決定を不服として労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、同五九年一二月一三日右再審査請求は棄却され、この裁決書の謄本は同六〇年二月二日原告の再審査請求代理人佐藤昭一に送達された。

2  本件処分の違法性

しかし、原告の振動病は、長期間チエンソー作業に従事したことにより発症したもので、この従事期間は、契約の内容及び作業内容よりみても労働者として従事したものであり、労災保険法の適用がなされるべきである。

よつて、被告のなした本件処分は、事実の認定及び法令の解釈を誤つた違法な処分であり、本件処分は取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

同2は争う。

三  被告の主張

1  本訴提起に至る経緯

(一) 原告は、昭和四二年にチエンソーを購入し、そのころから秋田県仙北郡田沢湖町の訴外三浦きよしに雇用されチエンソーを使用して伐木造材作業に従事し、以後同郡角館町の鈴木林業(事業主鈴木正次)との雇用関係が終了した同四九年一一月ころまでの間に数事業場に雇用され、その間労災保険法にいう「労働者」としてチエンソーを使用して伐木、造材作業に従事していた。

(二) その後も、原告は、昭和五〇年二月ころから同五三年四月ころまでの間(主に冬期間で一〇月から翌年四月まで)、秋田県仙北郡角館町の鈴木林業(事業主鈴木国武)の事業場において、前記同様チエンソーを使用して伐木、造材等の作業に従事していたものであるが、同五四年九月二一日中通病院で振動病と診断され、振動病に罹患していることが判明した。

(三) そこで、原告は被告に対し、原告の右振動病は(一)で述べた期間チエンソーを使用しての伐採作業に従事したことによるものであるとして、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求をした。

(四) 被告は、右請求につき事実調査のうえ、昭和五五年七月一八日、原告の振動病は振動ばく露後五年を経過してから発症しており業務上の疾病とは認められないとして、同年七月一八日右請求にかかる療養補償及び休業補償の不支給を決定(本件処分)し、原告にその旨通知した。

(五) 原告は、被告の右決定を不服とし、昭和五五年一〇月四日秋田県労働者災害補償保険審査官に対し、同五〇年二月から同五三年四月までの間鈴木林業(事業主鈴木国武)でチエンソーを使用して伐木造材作業に従事しており、したがつて原告の右振動病は業務上の疾病であるとして審査請求に及んだが、同審査官は同五七年九月二八日右期間原告は労災保険法上の労働者として従事していないことを理由に右請求を棄却する旨の決定をし、その旨原告に通知した。

(六) 原告は、右決定を不服とし、更に労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、同審査会は昭和五九年一二月一三日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、翌六〇年二月二日その旨を原告の再審査請求代理人に通知した。

これに対し、原告は、本件処分の取消しを求めて本訴を提起するに至つたものである。

2  昭和四九年一一月以前におけるチエンソー使用作業と原告の振動病の発症との因果関係

労災保険による保険給付は労働者の業務上の事由による疾病等に対し行われるものである。すなわち、当該業務と疾病等の発生との間に相当因果関係があることが右給付の要件となるところ、昭和四九年一一月以前における原告のチエンソーの使用作業と原告の振動病との関係については、被告の調査の結果によれば、当時、原告が治療を受けていた事実はなく、また同僚が原告の症状について確認している事実も認められないのであつて、右期間中に原告の振動病の発生を推認し得る確たる資料は皆無である。かえつて、昭和五〇年以降も原告がチエンソー使用作業に従事できる状態にあつたこと、同五四年九月中通病院において振動病と診断されるまで同病により治療を受けた事実や同僚が原告の症状を確認しているという事実は認められなかつたことに照らすと、原告の振動病の発生と同四九年以前におけるチエンソー使用作業との間に相当因果関係があるとすることはできず、むしろ同五〇年以降のチエンソー使用によつて発症したものとみるのが相当である。

3  昭和五〇年以降の原告の労働者性

(一) 原告の振動病は前述のとおり、昭和五〇年以降のチエンソー使用作業に起因して発症したものであるが、右期間中の原告と鈴木林業(事業主鈴木国武)との関係は使用従属関係にあつたとはいえず、原告は労災保険法による保険給付の受益者たる「労働者」の地位を有していなかつた。

(二) 労働者の意義

(1) 労災保険法による保険給付の受益者となる「労働者」の定義については、同法には特別の定めはない。しかし、同法一条においてその目的が、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対し、必要な保険給付を行い」と明示され、更に同法一二条の八第二項に傷病補償年金を除く本法の業務災害に関する保険給付は、労働基準法(以下「労基法」という。)に規定する災害補償の事由が生じた場合に、補償を受けるべき労働者等に対しこれを行う旨定めていることや労災保険法が労基法と時を同じくして同法に規定する災害補償の裏付けをする制度として発足した経緯等から、労災保険法にいう「労働者」と労基法にいう「労働者」とは同一のものをいうと解されている。

(2) ところで、労基法にいう「労働者」とは、同法九条において「職業の種類を問わず、同法の適用を受ける事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されており、右の「使用される者」とは、使用者との使用従属関係のもとで労務に服する者を意味し、「賃金」とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されている(同法一一条)。

(3) これらの規定を受け、労災保険の適用に当たつては労働者性が判断されることになるが、その判断基準は、前記各規定の趣旨に照らし、次のとおりと解されている。

<1> 仕事の依頼、業務従事に対する諾否の自由がないか。

<2> 業務従事について時間的拘束(勤務時間、始業及び終業時刻等を受けているか。)や場所的拘束を受けているか。

<3> 業務内容の詳細が使用者によつて定められる等、業務遂行過程において具体的な指揮監督がなされているか。それとも幅広い裁量が認められているか(これに関連し、服務規律のようなものが決められているか、履行補助者の使用が認められるかも判断要素のひとつになる。)。

<4> 報酬が労働の対償としての性格を有するか。

(4) 原告の鈴木林業(事業主鈴木国武)における作業実態

原告は、昭和五〇年から同五三年の主として秋から春にかけての間、鈴木国武が民家から立木のまま買い受けたなら材や雑木を、ホダ木又は新炭材等にするため、チエンソーで伐採して玉切りし、運搬しやすい所定の場所に集積し、これに対し鈴木国武が玉切りしたホダ木や薪炭材の出来高によつて代金を支払うという約束のもと、具体的には現場ごとに立木の状況等を見ながら、なら材一本いくら、薪炭材は一張いくらと話合いで決め、玉切りされて集積されたホダ木等の山ごとに数量を確認して代金を支払うというやり方で、右のとおりの伐木造材作業を行つた。そして、その作業形態は地域ごとにおおよそその仕上がり期限はあつたものの、具体的な作業方法、作業時間、休憩時間についてはなんらの指揮監督を受けることなく、全く原告の自由に任され、出勤状況の記録もなく、平均稼働日数は一か月一七、八日であり、また作業について原告以外の者を従事させるかどうかも原告の自由に行い得ることとされ、現に原告の作業中、常に補助者として作業に従事した原告の妻良子に対して、鈴木国武より賃金が支払われた事実はない。なお、原告がいわゆる常用として作業に従事したのは月にしてせいぜい二日位にすぎず、作業の内容も必ずしも同一でなかつたのであるから右程度の事情は本件での原告の労働者性の判断に影響を及ばさない。

(5) 右の事実関係からすれば、原告が鈴木国武に使用され、その業務遂行過程において同人から具体的な指揮監督を受けるところの使用従属関係にある労働者とは到底認められず、原告はいわゆる一人親方であり、両者の関係はまさに請負というべきである。

なお付言すると、チエンソーを使用して、伐木造材作業に従事する者の作業形態が右の如きものに限られるものでないことは関係証拠上明らかであり、また右に類似するとして原告が掲げる事例は、双方の従来からの長期にわたる特別な関係や、生産調整の指示を受けるなど作業内容についても具体的な指揮監督のなされているというもので、強い支配従属関係の認められるものであつて、本件とは事案を異にするというべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張1は認める。

同2は争う。

同3の(一)は争う。

同3の(二)の事実のうち、原告が被告主張のとおりの約定で伐木造材作業を行つたこと、妻と一緒に仕事をしたこともあつたことは認め、その余は否認ないし争う。

五  原告の反論(本件処分の違法性)

1  原告が昭和四二年から同五三年までの間にチエンソーを使用して従事した伐木、造材作業の実態は、別表のとおりである。

2  原告は、昭和四四年ころから耳鳴り、肩や首のこり、腕のだるさ等の症状を訴えるようになり、貼布薬を使用していたが、同四七年ころからは握力が低下し、同四八年ころからは、頭痛、手指のしびれ及び痛み、冷え、頭重感、いらいら感等があり、夜眠れなくなるようになつた。

3  以上のとおり、原告は既に昭和四二年から、長期間にわたり振動工具であるチエンソーを使用してきており、チエンソーを相当期間使用していれば振動病に罹患するおそれが高いことは公知の事実であり、右相当期間とは通常一年間ないしそれ以上といわれていること及び右自覚症状は振動病によるものに近似していりことも併せ考えると、昭和四八年ころ、遅くとも昭和四九年には原告の振動病が発病し、それは右チエンソーの使用という業務に起因していると優に推認できる。

被告は、原告が当時治療を受けていないことを主張するが、振動病についての知識がない者にとつて右自覚症状を振動病と認識することは困難であり、せいぜい体調の悪化と考えて病院に行かないことは容易に想像し得ることであるから、右一事をもつて前記推認を覆すことはできない。

また、山林労働者の意識として、右自覚症状がチエンソーの使用に由来するとあえて考えないようにする傾向にある。もしチエンソーに由来するなら、労働者は自己の職を失うことになるからである。山林労働者は、山での仕事を続け生活を維持するために、あえて自己の体の悪化に目をつぶり、我慢を重ねて仕事を続けざるを得ないのである、原告が、昭和五〇年以降もチエンソー使用作業に従事していたのも、無理な体を押してでも山で働かざるを得ない右の如き事情に由来するのである。したがつて、以上のような山林労働者の実態に目を向けるならば、被告主張の事実は、前記推認を覆すに足りず、原告の振動病と昭和四九年までの使用業務との間に相当因果関係は認められるべきである。

4  次に、被告は昭和五〇年以降の原告の作業は、鈴木国武との間の雇用関係に基づくものではなく、原告に労働者性は認められないと主張する。

しかし、特別の技能を必要とする伐木作業については、具体的な作業について日常的に指揮・監督されていないのが山林労働の実態である。熟練労働者になるほど、使用者に信頼され、その傾向が強い。右の如き山林労働者の実態、その業務の特殊性に着目した上で、使用従属関係が認定されるべきである。

そうすると、別表のとおり、原告は四年間右鈴木の下で継続的に伐採作業に従事し、同人に経済的に依存していたこと、同人から交付される金員も出来高払制の賃金というべきものであつたこと、伐採の範囲・期間及び伐木の搬出場所についても同人から指示されていたこと、右作業に際し、同人から常に「怪我をしないように注意しろ。」と指導されていたことが認められるから、原告は右鈴木と使用従属関係にあつたというべきである。

したがつて、原告は、昭和五〇年以降の作業についても、労働者と認められる。

5  以上のとおり、原告の振動病は遅くとも昭和四九年には発病し、それまでのチエンソー使用業務との間に因果関係が認められる。仮に、昭和五〇年以降の作業に由来するとしても、右の期間の原告には労働者と認められる。したがつて、右のいずれも否定した本件処分は違法で、取り消されるべきである。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1の事実(本件処分の存在)、被告の主張1の事実(本訴提起に至る経緯)は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の右振動病が労災保険法七条一号にいう「業務上の疾病」に該当するかにつき判断する。

1  労災保険法によつて療養補償給付及び休業補償給付の支給対象とされる業務上の疾病の範囲は、労働基準法施行規則の別表第一の二に掲げられているところ(労災保険法一二条の八、労働基準法七五条、同法施行規則三五条)であるが、右にいう疾病とは、業務と右疾病との間に相当因果関係があることを要すると解するのが相当である。

2  ところで、<証拠略>を総合すれば、以下の各事実を認めることができる。

(一)  原告の経歴及び従事した業務の実態

(1) 原告(昭和一七年九月二七日生)は、中学卒業後、同四二年三月ころまで、秋田県、東京都等で土木作業員や水道配管工などとして働いてきた。

(2) ところで、原告は、昭和四二年四月ころから山林伐採労働者として働くようになり、まず、岩手県の昭林工業の事業所で、伐採作業の助手として従事し、同年九月ころから同四四年三月ころまで、自らチエンソー(マツカラー二五〇型、防振無、重量約一〇キログラム)を購入して、これを使用して広葉樹の伐木作業に従事し、その間は月に約二〇日間、一日概ね四ないし五時間、チエンソーを使用していた。

同四四年四月ころから同四六年初めころまでは、秋田県仙北郡田沢湖町にあるくずは林業の事務所で、前記チエンソーを使用して伐木造材作業に従事し、その間は月に約一二、三日、一日概ね四ないし五時間、チエンソーを使用していた。

同四六年四月ころから同四九年四月ころまでは、同県仙北郡田沢湖町の畠山林業の事務所で、買い替えたチエンソー(マツカラーCP七〇型、防振有、重量約六ないし七キログラム)を使用して伐木造材作業に従事し、その間、月約二〇日、一日概ね四ないし五時間、チエンソーを使用していた。

更に、同四九年五月ころから同年一一月ころまでは、同県仙北郡角館町の鈴木林業(施業者鈴木正次)の事業所において、右チエンソーを使用して伐木造材作業に従事し、月に約二〇ないし二三日、一日概ね四ないし五時間、チエンソーを使用していた。(なお、以上の伐木造材作業は、労災保険法にいう「労働者」として従事したものであり、この点については当事者間に争いがない。)

(3) そして、その後、昭和五〇年二月から同年三月、同年一〇月から翌五一年四月、同年一〇月から翌五二年四月、同年一〇月から翌五三年四月にかけて、同県仙北郡角館町の鈴木林業(施業者鈴木国武)の事業所において、右チエンソーを使用して伐木造材作業に従事し、月に約一七ないし一八日、一日概ね四時間、チエンソーを使用していたが、その後は山林労働者としての作業には従事していない。

(二)  原告の自覚症状等及び医師の診断

(1) 原告の自覚症状の推移

原告は、昭和四六年ころから手指、前腕のだるさ、しびれを覚え、次第に冷え、頭重感、肩こりを覚えるようになつたが、原告はこれらは単なる疲れから来る症状だと安易に考えて、特に治療することもなく、その後も前記の各チエンソーを使つて伐木造材作業に従善していたが、右症状は消失しないどころかむしろ次第に悪化し、鈴木林業(施業者鈴木国武)を退職したのを最後に伐木作業員としての仕事を辞めていたが、昭和五四年八月、秋田県仙北郡田沢湖町で行なわれた健康診断で、医師から精密検査を受けるように勧められ、同年九月秋田市中通病院の佐藤善政医師から振動病との診断を受けた。

(2) 医師の所見

右佐藤医師は、原告に対し、原告の自覚症状及び諸検査の結果を基にして、末梢循環障害、末梢神経障害及び運動機能障害のいずれも認められ(うち後二者は著明に認められる。)、運動器の異常も認められるとし、総合所見として原告に対し要治療の判定を下し、「全身的に冷えると、レイノー現象が手指に出現する。痛覚の鈍麻がみられ、握力低下、つまみ力の低下が著しい。項部痛、左上肢痛、左母指痛などが、外傷の既往歴なく、リユーマチ、痛風などの検査では正常なのに認められること。めまい、頭痛、不眠、音が頭にひびくなど、中枢神経の機能障害もみられ、七年間チエンソーを一日平均六時間使用して振動へのばく露が相当あり、振動病と診断する。」と診断している。

(三)  労働省労働基準局長通達について

右通達(基発第三〇七号昭和五二年五月二八日)は、振動工具であるチエンソーを取り扱う業務による振動障害の業務上外の認定基準を定め、労働基準法施行規則三五条(別表第一の二の三、3)に該当する業務上の疾病の認定基準を示し、その要件として、

(1) 振動業務に相当期間従事した後に発生した疾病であつたこと

(2) 次に掲げる要件のいずれかに該当する疾病であること

ア 手指、前腕等にしびれ、痛み、冷え、こわばり等の自覚症状が持続的又は間けつ的に現われ、かつ、次の<1>から<3>までに掲げる障害のすべてが認められるか、又はそのいずれかが著明に認められる疾病であること。

<1> 手指、前腕等の末梢循環障害

<2> 手指、前腕等の末梢神経障害

<3> 手指、前腕等の骨、関節、筋肉、腱等の異常による運動機能障害

イ レイノー現象の発現が認められた疾病であること

を掲げ、(1)の相当期間とは、おおむね一年又はこれを超える期間をいうとされている。

3  原告の振動病の業務起因性

2の認定事実によれば、原告には、これまで外傷等の既往歴がなく、リウマチ、痛風の検査は正常であつたのであるから、原告の年齢を考えれば、前記振動病は、原告の永年にわたる振動工具であるチエンソーを使用しての伐木造材作業により、継続的な振動等の負担、刺激が身体各部位に加わつたことにより発症したものと認められる。

そこで、原告の従事した作業内容についてみるに、原告は中通病院で振動病と認定された時点から約一二年前である昭和四二年九月以降同四九年一一月までの約七年間、労災保険法にいう「労働者」として、身体に直接な負担、刺激を与えるチエンソーを使用して伐木造材作業に従事し、その間のチエンソーを使用しての作業時間は延べ約七五〇〇時間に及び、その後の同五〇年二月から五三年四月の冬期間もチエンソーを使用して伐木造材作業に従事したが、その間のチエンソーを使用しての作業時間は延べ約一五〇〇時間であつた。

ところで、振動病の病相は徐々に進行し、その間の身体への負担、刺激が相当期間経過して後、同病として顕在化し、チエンソーの使用を継続するとともに症状が更に高進悪化するものであり、また、チエンソーの使用時間が長くなればなるほど発症及び症状悪化の危険性が大きくなるものであることは、裁判所に顕著な事実であるところ、原告は昭和四六年当時には既に振動病の特徴とされる手指のしびれ、痛み、頭重感、腰痛等を自覚症状として覚え、その後の症状は一向に消失していなかつたというのであつて、原告が従事した伐木作業におけるチエンソーの使用時間は昭和四二年から同四九年の間に使用した分が全体の約八割にも上つているのであり、特に昭和四二年から同四六年の間に使用したチエンソーが防振装置のない、重量が一〇キログラムもある機種であり、振動の負担の大きいものであつたことや昭和五〇年二月以前において発症した症状の程度内容及び振動病の発症原因等を考え併せると、原告の罹患した振動病は昭和五〇年二月以前におけるチエンソーと右時点以降のチエンソーの使用がともに原因となつて右病態に至つたということができ、しかも前記認定の事実関係を前提とすれば、原告の振動病に対する昭和五〇年二月以前におけるチエンソーの使用による影響の割合は極めて大きいものがあるというべきであり、したがつて、仮に昭和五〇年二月以降に原告が従事した伐木作業の作業形態に労働者性が認められないとしても、原告が罹患した振動病と昭和五〇年二月以前における原告のチエンソーの使用との間には相当因果関係があるといわざるをえない。

そうすると、原告の罹患した前記認定の振動病は「業務上の疾病」に当たるといわなければならず、これが、業務上の事由に起因するものでないとした被告の本件処分は違法というほかない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福富昌昭 宇田川基 稻葉一人)

就労期間

事業所

チエンソー機種名防振の有無

延使用月数(月)

1ヶ月平均使用日数(日)

1日平均使用時間

(時間)

延振動暴露時間

(時間)

昭和42年4月

~同44年春

昭林工業

(岩手県)

マツカラー

250

防振無

24

18

4

1,728

同44年春~

同46年

くず葉林業

(田沢湖町)

同上

24

18

4

1,728

同46年~

同49年

畠山林業

(田沢湖町)

マツカラー

CP70

防振有

30

20

4

2,400

同49年5月~

同年11月

鈴木正次

(角館町)

マツカラー

CP90

防振有

7

22~23

5~6

700

同50年2月~

同年3月

鈴木国武

(同町)

同上

2

17~18

4

144

同50年10月~

同51年4月

同上

同上

7

17~18

4

476

同51年10月~

同52年4月

同上

同上

7

17~18

4

476

同52年10月~

同53年4月

同上

同上

7

17~18

4

476

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